あなたは入浴介助をしていて、特浴と機械浴の違いはどこにあるのか気になったことはありませんか?
ある介護士さんの話によると、「前の職場では特浴と言っていたのに、新しい職場ではみんな機械浴と言っている。どちらも同じ入浴方法なのに、なぜ呼び方だけが違うんだろう」と、疑問に思ったことがあるそうです。
今このページを読んでいる人の中にも、「似たような経験をして戸惑ってしまったことがある」という人も多いのではないでしょうか。
それほど、曖昧で分かりにくい特浴と機械浴の違いですが、どうやらこの特浴と機械浴という呼び方については、施設によっていくつかの違いがあるようです。
そこでこのページでは、「特浴と機械浴に違いはあるのか」を明らかにするとともに、同じように分かりにくいとされている、「入浴の種類や入浴の種別(入浴形態)」についても、合わせて説明していきます。
できるだけ、誰が読んでも分かるようにお伝えしていきますので、安心して読んでもらえればと思います。
目次
入浴の種類
まず最初に、入浴の種類にはどのようなものがあるのかをおさらいしておきましょう。
入浴の種類は、以下の2つとなっています。
- 一般浴
- 特浴(機械浴)
見ての通り、入浴の種類は2つしかありません。一般浴と特浴(機械浴)の2種類です。
ではなぜ特浴と機械浴が別々ではなく、特浴(機械浴)となっているのかを説明しましょう。
特浴と機械浴は同じ意味であるということ
実は特浴と機械浴は、言葉に違いはあるものの、入浴の種類としては同じ意味として捉えられています。その理由は、特浴は特殊浴槽、機械浴は機械浴槽、といった具合に、どちらも「機械を使用して特殊な入浴を行うためのもの」だからです。
つまり、特浴と機械浴という呼び方については、どちらが間違いということはなく、どちらの言葉を使ってもいいということです。
施設によって呼び方が違うのは、その施設で定着した呼び方が、特浴か機械浴かのどちらかになっただけのことなのです。
入浴の種類は一般浴と特浴(機械浴)の2種類であること、そして特浴と機械浴に違いはなく、同じ意味であるということがお分かりいただけたでしょうか?
次は、入浴の種別(入浴形態)についてみていきましょう。
入浴の形態(入浴種別)
入浴の種類については上述した通りですが、入浴には他にも入浴の種別(入浴形態)というものがあります。
種類や種別など、似たような言葉が出てきて、多少分かりにくくなってきたと思いますが、読んでみれば「なんだ、そんなことか」と思える内容ですので、安心してください。
さて、入浴の種類は2種類でした。一般浴と特浴(機械浴)ですね。ここまでは大丈夫だと思います。
そして、入浴の種別(入浴形態)についてですが、これは一般浴と特浴(機械浴)を、さらに細かく分けたもののことをいいます。先ほどの「1.入浴の種類」に種別を加えたものをみていきましょう。
- 一般浴
・ 個別浴(個浴、普通浴)
・ 多数浴 - 特浴(機械浴)
・ ストレッチャー浴(ハーバード浴)
・ リフト浴
・ チェアー浴
・ ドーム浴
見てもらえば分かるように、一般浴の下にさらに2つ、特浴の下に4つの入浴方法があります。
この入浴方法が、入浴の種別(入浴形態)と呼ばれているものです。
一般浴という種類の中の、「個浴」と「多数浴」の部分が入浴の種別(入浴形態)、特浴(機械浴)という種類の中の「ストレッチャー浴」と「リフト浴」と「チェアー浴」が入浴の種別(入浴形態)となります。
入浴の種類 | 入浴の種別(入浴形態) |
一般浴 | 個別浴(個浴、普通浴)、多数浴 |
特浴(機械浴) | ストレッチャー浴、リフト浴、チェアー浴、ドーム浴 |
一般的な介護現場では、入浴方法を決める際には種類や種別ではなく、「入浴形態」という言葉のほうが使われることは多いです。種類や種別という言葉を使うと、混同して分かりにくくなってしまうのを防ぐためですね。
ちなみに、なぜストレッチャー浴やリフト浴などが、特浴(機械浴)に分類されるのかというと、先ほども説明した通り、どの入浴方法も「機械を使用して特殊な入浴を行うため」です。
呼び方が一般浴と特浴(機械浴)だけではいけない理由とは
これほどいくつもの入浴タイプがあるのですから、いっそのこと、入浴方法はわかりやすく一般浴と特浴という呼び方だけではいけないのかと考える人もいるでしょう。
ではなぜ、入居者の入浴形態を、あえて一般浴と特浴(機械浴)という2つにしぼらず、ストレッチャー浴やリフト浴といったように、入浴タイプ別に分けて決めるのかという理由をご説明します。
ご紹介したように、入浴形態には様々なタイプがあります。施設の入浴設備にもよりますが、入居者の入浴形態を決めるときには、どの入浴タイプがその入居者に適しているのかを検討して決めていきます。
寝たきりの入居者の場合はストレッチャー浴、歩行はできないが座位は保てる入居者はリフト浴、ご自分で歩いて入れる入居者は個別浴、といった具合に、入居者ごとに個別の入浴形態を決めていきます。
その個別に決められた入浴形態を見て、介護士さんは入浴介助を行っていくわけです。
たとえば、もし個別に入浴形態が決められておらず、大まかに一般浴か特浴(機械浴)としか決められていなかったとしたらどうでしょうか?
介護士さんはどの入浴タイプで入浴介助を行えばいいのかわからず、人それぞれ違う入浴介助を行ってしまうかもしれません。
それは、入浴介助を受ける入居者にとって混乱を招くとともに、介護士さんにとっても統一された介護サービスの提供が困難な介護環境を作り出してしまいます。
それを防ぐために、入居者の個別の入浴形態を決める必要があるのです。
たいていの場合、どの入浴タイプで入浴介助を行うかは予め決められていますので、入浴介助の一覧表などがなければ作成しておくといいでしょう。下記は一例です。
入浴形態一覧表 | |||
氏名 | 入浴種類 | 入浴タイプ | 留意点・備考欄 |
〇〇〇〇様 | 一般浴 | 個別浴 | 浴室で転倒歴あり、付き添う |
〇〇〇〇様 | 特浴(機械浴) | ストレッチャー浴 | 臀部褥瘡あり、入浴後に処置 |
〇〇〇〇様 | 特浴(機械浴) | リフト浴 | 浴槽内で意識消失歴あり |
〇〇〇〇様 | 一般浴 | 個別浴 | 洗い残しあり。一部介助 |
〇〇〇〇様 | 特浴(機械浴) | リフト浴 | リフトからのずり落ち歴あり |
〇〇〇〇様 | 特浴(機械浴) | ストレッチャー浴 | 心疾患あり、入浴は5分まで |
入浴タイプ別の説明
【個別浴(個浴、普通浴)】
在宅にあるような浴槽での入浴です。基本的には、介護士1人と入居者1人での、マンツーマンの入浴方法となります。
自宅の風呂に入っているような感覚で、ひとりでゆっくりと入浴を楽しむことができます。近年では個別浴槽を導入している施設がほとんどです。
浴槽の材質は様々で、ステンレス素材や強化アクリル樹脂以外にも、施設によっては天然のヒノキを使ったヒノキ風呂を楽しめるところもあります。
浴槽内で身体が沈み過ぎないよう、浴槽は在宅のものに比べるとやや浅めな作りになっており、また、浴槽内でバランスを保ちやすいよう浴槽の横幅もやや小さめになっています。
立位が困難な入居者でも、ある程度座位を保てる方なら、入浴用の介護用品を使って入浴できることも多いです。浴槽内で滑らないように、滑り止めマットは必ず敷くようにします。
感染症予防の観点から、基本的に浴槽内のお湯は、毎回新しく入れ直す場合がほとんどです。
【多数浴】
数名の入居者が入浴できるように設計された、多人数対応の浴槽です。銭湯にあるような大きい浴槽をイメージすると分かりやすいでしょう。
数名の介護士で、何人もの入居者の入浴介助を行う場合に使用されます。
現在、特養などでは、この多数浴を行っている施設は少なくなりつつあります。理由のひとつとしては、介護保険施行後の個別ケアの推進が挙げられます。
介護士と入居者が1対1で入浴介助を行うことで、ゆっくりと入浴を楽しむことができ、入居者にとっての入浴サービスの質を向上させることが目的です。
そのため、現在は個別浴が主流となっています。
また、多数浴の浴槽のデメリットとして、昔ながらの広く、深いタイプの浴槽が多く、入浴中に浴槽内で入居者の身体が浮いたり、何かにつかまっていないと溺れる危険性があり、入浴中の事故につながるおそれもあります。
さらに、限られた時間でできるだけたくさんの入居者の入浴を行おうとするあまり、着替えをする介護士、身体を洗う介護士、といった具合に、工場のような流れ作業になってしまうケースもみられたため、時代の流れとともに、多数浴は敬遠されるようになっていきました。
しかし、現在でも有料老人ホームなどでは、個別浴槽とは別に、循環式の広いタイプの浴槽も設置しているところがあるようです。比較的お元気な方で、広い浴槽でゆっくりと入浴を楽しみたいというニーズに合わせて作られています。
循環式の浴槽の場合は、週に1~2度の浴槽内の清掃と、毎日の塩素チェックを行い、清潔なお風呂にいつでも好きなときに入れるようになっています。
【ストレッチャー浴(ハーバード浴)】
寝たままで入浴ができるタイプです。基本的には入居者1名につき、介護士2名で入浴介助を行います。
一般的にはストレッチャー浴と呼ぶことが多いですが、病院あがりの看護師さんなどはハーバード浴と呼んだりしますので覚えておきましょう。意味は同じです。
こちらは、車イスなどで上手く座位が保てない、寝たきりの方の入浴をする際に使用される場合がほとんどです。
浴槽とストレッチャーが別々になっており、ストレッチャーの上では洗髪や洗身を行います。その後、固定式の浴槽の真横までストレッチャーを動かして、ゆっくりとスライドさせながら浴槽とストレッチャーをドッキングします(ストレッチャーも様々なタイプがあるため、その都度使い方は教えてもらいましょう)。
あとは、浴槽やストレッチャーの高さを上げ下げしながら、高さ調節を行い入浴してもらいます。
入浴中は必ず介護士1名はそばで見守るようにします。ストレッチャーからずり落ちたりしていないか、表情は苦しそうにしていないかなど、常に観察しておくようにしましょう。
このタイプの機械浴槽には、バブル機能がついているものがあります。しかし、個人的にはこのバブル機能の使用は、あまりおすすめしていません。
なぜかというと、バブル機能を使うと音が大きく、その音を怖がって入居者を不安にさせてしまうケースがあるためです。
個人差はありますが、よほどこのバブル機能を気に入っている入居者でないかぎりは、使用は控えたほうがいいでしょう。
まれなケースですが、骨折などで身体を動かすことができない入居者を、ストレッチャー浴で対応する場合もあります。医師から入浴の許可は下りたが、身体的に負担のかかる普段の入浴方法では対応が困難なケースなどの場合は、ストレッチャー浴を使用することが多いです。
【リフト浴】
座位の状態で入浴ができるタイプです。基本的には入居者1名につき、介護士は1~2名で入浴介助を行います。
リフト浴にも様々なタイプがありますが、主に下肢の筋力が低下した方が使用される場合がほとんどです。
リフトのタイプとして、移動式のシャワーキャリーをリフト部分にドッキングして使用するタイプや、イスごと持ち上げてそのまま入れるタイプ、ネットとベルトで身体を持ち上げて入るタイプなどがあります。
どれも使用するには慣れが必要なため、あらかじめ使用手順などはしっかりと理解しておくようにしましょう。
また、リフトのタイプによっては、これまでストレッチャー浴だった入居者でも、リフトを使用することで個別浴槽に入れるようになるケースもあります。
【チェアー浴(チェアーインバス)】
シャワーキャリーなどに、座ったまま入浴ができるタイプです。基本的には入居者1名を介護士1名で入浴介助を行えます。
後述する「ドーム浴」とも呼ばれるもので、専用の機械浴槽があり、シャワーキャリーをそのまま機械浴槽の中に入れて入浴します。
入居者の首から上は出した状態で、開閉式の扉から出入りします。シャワーキャリー式のほかにも、リクライニング式シャワーキャリーでも入浴が可能なタイプもあります。
実際に入った感じも心地よく、通常の貯湯タイプの入浴に比べると、心臓や身体への負担もかなり軽減できます。そのため、身体を温かいミストやシャワーなどで温めることのできるタイプが人気です。
入居者にとっては、入浴介助中に介護士から身体を抱きかかえられる不安もなく、安心して入浴を楽しめるというメリットがあります。
また、介護士にとっても立位介助や、移乗介助などを行う手順を減らすことができるため、腰への負担や介護量の軽減を図ることができます。
注意しなければならないのは、入居者にとってはあまり見慣れない機械浴槽であるため、始めのうちは不安がる入居者がいる点です。特に、認知症のある入居者を、このタイプで入浴介助を行う際は、ひとつひとつの動作をゆっくりと説明しながら行うようにする必要があります。
上手に使えば便利なものですが、介護士の慣れによる説明不足で、思わぬ事故につながるおそれがあるので、しっかりとマニュアル化しておくようにしましょう。
【ドーム浴】
ドーム浴とは、専用の機械浴槽で入浴ができるタイプのことをいいます。
上述したチェアーインバスタイプのものから、ストレッチャーに対応したタイプもあります。
機械浴槽の形状がドームのようになっていることから、それらの入浴タイプをドーム浴と呼んでいます。
チェアー浴では入居者1名と介護士1名で通常は入浴介助を行いますが、ストレッチャータイプはストレッチャー浴と同様に、介護士2名で入浴介助を行います。
まとめ
このように、入浴の種類や種別(入浴形態)も、一度整理してみると分かりやすかったのではないかと思います。
これまで、ふと、特浴と機械浴の違いについて疑問に思ったことのある人も、また、入浴の種類についてあまり詳しく知らなかったという人も、分からないことはそのままにせず、このようにして整理しながら理解しておくようにするといいでしょう。
入浴のことで、ご家族から説明を求められたとき、あなたが他の介護士さんよりも詳しく説明できるように、あなた自身が納得するまで何度でも読み直してみることをおすすめします。
今まで解らず、もやもやしていたことが整理して理解することが出来ました。
有難うございます。
わかりやすい説明ありがとうございます。
機械浴と特浴がわかっていましたが、ドーム浴が初耳でした。
また、仕事に利用者様の自分らしいの入浴できるように頑張りたいと思います。