介護施設でのオムツ交換の手順と留意点

介護施設でのオムツ交換は、介護の経験者であれば一度は行ったことのある人も多い身体介助のひとつです。

各介護施設においても、オムツ交換やトイレ誘導などの排泄マニュアルに加え、入居者ひとりひとりに対しての個別的な排泄マニュアルを作成し、統一されたケアを行っている施設がたくさんあります。

しかし、マニュアルはあっても読んだことがないという人や、入職したときにマニュアルがあることすら教えてもらっていない介護士さんが多くいるのもまた事実です。

開設当初に作成したまま、その後は改変されていないままの古いマニュアルが、書類棚の隅にひっそりと眠ったままになっている職場も多いのではないでしょうか?

そこでこのページでは、排泄介助でも重要な「オムツ交換の基本的な手順」と、「オムツ交換を行う際の留意点」をご紹介していきたいと思います。

これまでマニュアルがあるのを知っていても、難しそうでなかなか読む気になれなかったという人も、この機会に手順と留意点を確認してみましょう。


目次

オムツ交換の目的

介護施設において、オムツ交換を行う目的はひとつではありません。

①現在の入居者の状態に合わせて行うオムツ交換の目的と、②入居者の排泄ケアの質の向上のために行う目的の、2つがあります。

少し分かりにくいと思うので、ひとつずつ、みていきましょう。

身体の清潔の保持

身体の清潔の保持は、文字通り「入居者の身体の清潔を保つ」ということですが、こちらは前述した①の目的に沿って行うオムツ交換となります。

現状でオムツを着用されており、オムツ交換が必要な入居者の場合、オムツ交換を行うことで陰部や臀部(お尻の部分)を清潔にしておく必要があります。

尿や便などをオムツの中に排泄するため、不潔になってしまった陰部などを清潔にするために行うという目的で、オムツ交換を行います。

褥瘡やかぶれ等の予防

こちらも前述した①の目的に沿って行うものとなります。先ほどの身体の清潔の保持を行うことで、臀部などに起こりがちなかぶれや褥瘡を予防することが目的となります。

尿や便などが長時間、皮膚に付着したままになると、その部分が炎症を起こしてかぶれの原因や褥瘡の原因になってしまうことがあります。

重度の認知症の方や寝たきりの方は、オムツの中が気持ち悪くなって痒くなっても、それを自分できれいにすることはできません。

痒みの原因は不潔になってかぶれてきているために起こる、「身体からのサイン」のようなものですので、褥瘡やかぶれを予防するためにも、オムツ交換を行う必要があるのです。

オムツでの排泄からトイレでの排泄へ

こちらは前述した②の排泄ケアの質の向上のために行うことを目的としたものになります。

介護業界では一般的に「おむつ外しプロジェクト」や「おむつゼロ運動」などと呼ばれています。

オムツを着用されている方は、重度の認知症や寝たきりの方が多いため、ご自分でトイレに行って排泄をするということが難しく、失禁などを繰り返してしまうことから仕方なくオムツを着用されています。

しかし、実は尿意や便意というものは、認知症や寝たきりになっても「忘れてしまう」ということはなく、いつまでも残っているものだとされています。

詳しくは、また別の機会にでもご紹介できればと思いますが、とにかく尿意や便意は無くならないということです。

認知症でも尿意や便意を忘れない理由と、あえて忘れなければならないものとは
参考記事:とある介護福祉士のさとりより

つまり、重度の認知症や寝たきりの方でも、「おしっこがしたい」「うんちがしたい」という意識がちゃんとあるということですので、だったらトイレでも排泄が出来るようになるんじゃないかということから、オムツ交換ではなくトイレ誘導を行ってみようと始まったのが、先ほどのおむつ外しプロジェクトやおむつゼロ運動です。

介護サービスも、個別ケアを目標にと言われ始めてかなり経ちますが、排泄ケアの質の向上のためにも、オムツへの排泄からトイレで排泄することを目標に、日々がんばっている施設がたくさんあります。

 

このように、オムツ交換を行う目的には2つの目的があるということをまずは知った上で、次はオムツ交換の基本的な手順をおさらいしていきましょう。

オムツ交換の手順

オムツ交換の手順は、「準備」「実施」「後片付け」の順にご紹介していきます。

オムツ交換で準備するもの

  • オムツ(個別の排泄マニュアルなどで決められているものを準備する)
  • 微温湯(38~40度くらいのお湯が入った陰部を洗い流すためのボトルのこと)
  • 下拭き用のタオル(保温庫で温められているものを数本準備する)
  • 汚染したオムツを入れるフタ付きのバケツ(ニオイが漏れない容器)
  • その他(シーツ汚染防止用の新聞紙や消臭スプレーなど)

施設によっては、排泄介助専用のカート(オムツや排泄パッド、下用タオル、汚染用バケツなどを同時に持ち運べるようにした機能的なカート)を使っているところもありますので、その場合は使い方を習っておくようにしましょう。

オムツ交換の実施

  1. これからオムツ交換を行うことを伝える。同時に室温を確認する。
  2. 個室の場合は入口のドアを閉める。多床室の場合はプライベートカーテンを閉める。
  3. 布団類を足元の邪魔にならない位置で折りたたむ。
  4. ズボンを下げ、オムツを開く。
  5. 微温湯で陰部を洗い流し、下用タオルでやさしく拭き取る。
  6. 体を横にして、臀部を微温湯で洗い流したら下用タオルでやさしく拭き取る。
  7. 汚染した排泄パッドやオムツはバケツに入れ、新しいオムツを当てる。
  8. 陰部・臀部にワセリンを薄く塗布する。
  9. オムツを閉じ、ズボンを上げる。
  10. 体位交換後は、布団類を元に戻しカーテンなども開ける。
  11. オムツ交換が終わったことを伝え、退室する。
  12. 排泄介助の記録を行う。

後片付け

排泄パッドやオムツ類は、最近では業者がリサイクル回収を行っている場合も多く、専用の回収袋があればそちらに入れるようになっている施設も増えてきました。

オムツ交換時に使用した新聞紙などはリサイクルの対象にはならず、通常の燃えるごみとして出す必要があるため、オムツ類とは分別する必要がある点には注意しましょう。

下拭き用のタオルも業者が回収にくるので、専用の回収袋に入れるようにしましょう。

便などで汚染した衣類があるときは、汚物処理室で汚れを洗い落とし、30分ほどワイドハイターなどで浸け置きしたあとに洗濯に出すようにします。

洗濯物を業者委託している施設の場合は、その職場の汚染用衣類の出し方のルールに従いましょう。

オムツ交換の留意点

オムツ交換をする際には、いくつか気をつけておきたい留意点があります。

まずは、オムツ交換を実施する前の留意点から見ていきましょう。

オムツ交換を実施する前に確認しておくこと

オムツ交換を行う前には、排泄表や排泄チェック表など、個別の排泄介助を行う時間が記載されたものを必ず確認するようにしましょう。

確認するのは使用するオムツの種類だけではありません。

それまでの排泄の有無を、時間を遡って確認しておくことで、長時間排尿が無いといったケースや、軟らかい便が続いているケースなど、様々なことに気づくことができます。

入居者の排泄の状態観察をしっかりと行っておくことは、異常の早期発見にもつながります。

オムツ交換時に確認しておきたい留意点

室温の確認

オムツ交換をする上で、忘れがちなポイントとして多いのは「室温の確認」です。

常に動いている介護士さんとは違って、寝たきりなどであまり動かれない入居者は寒さを感じやすい傾向にあります。

特に冬場は布団をはいだだけでも寒いので、オムツ交換をする前には室温を確認するようにしましょう。

そばを離れるとき

オムツ交換中は基本的にその場を離れるようなことはありませんが、多量の便失禁などで下用タオルが不足してしまった場合など、どうしても一時的にその場を離れなければならないというケースもあります。

入居者のそばを離れる際は、バスタオルをかけるなどして羞恥心に配慮し、離れる旨を伝えるようにしましょう。ベッド柵を外している場合は、忘れずに元に戻しておくようにしてください。

かぶれ、褥瘡などの観察

オムツ交換中は、陰部や臀部、ソケイ部(足の付け根部分)にかぶれや発赤、褥瘡などの異常がないかも観察するようにしましょう。

特に臀部は褥瘡の好発部位(よく出来る箇所)なので、体を横にした際にはしっかり観るようにします。

特に夏は汗をかきやすくなるため、オムツの中は蒸れてかぶれを起こしやすくなります。

オムツ交換のたびにきれいに洗浄して、薄くワセリンを塗っておくと皮膚のスキントラブルを防ぎやすくなるのでおすすめです。

においへの配慮

排便などで部屋の中にニオイが充満してしまったときは、オムツ交換後に部屋の窓を開けて換気を行いましょう。廊下側のドアを開けてしまうとニオイが廊下に入ってきてしまうため、開けるのは部屋の窓だけです。

消臭スプレーなどがあれば、入居者の顔にかからないようにスプレーしておきましょう。

冬場など、長時間窓を開けっ放しにしておくのは寒いので、消臭スプレーは常備しておくと便利です。

こまめな声掛け

オムツ交換をしているときに、声掛けを忘れてしまっているということが意外と多いようです。

「横を向けますね」「オムツを外しますね」などの声掛けをすることは、入居者に安心感を持っていただくためにも大切なことです。

オムツ交換をただの「作業」として終わらせないためにも、入居者と関わっていることを意識しましょう。


オムツ交換の適切な時間帯

オムツをしている入居者は、基本的に「オムツ交換の時間」というものが決められている場合も多く、排泄表などに沿って定時でオムツ交換をするというのが普通です。

細かい排泄のデータを取って、その排泄データを上手く活用できている施設もたくさんありますが、オムツ着用者をまとめて同じ時間帯にオムツ交換している施設も、同じようにたくさんあります。

きちんと調べようと思えば、排泄に関する個人のデータをある程度までは出すことが可能です。しかし、それを行うにもそれなりの時間を要しますので、まずは簡単にできることから始めてみてもいいと思います。

まずは排尿よりも排便のデータから取ってみよう

オムツ着用者でも、尿意や便意があることを忘れていないというのは前述した通りです。詳細は、「認知症でも尿意や便意を忘れない理由と、あえて忘れなければならないものとは」を参照してください。

皮膚感覚を喪失した状態のオムツ着用者の排泄データを取るというのは、計画的な調査とかなりの根気がいる作業です。

しかしそれは、「排尿」のデータを取る場合です。「排便」のデータに関しては、意外と簡単に集めることができます。

介護士として働いている人はご存知だと思いますが、私たちは日々入居者の「排便のチェック」を行っています。

その排便チェックのデータを使って、排便のある周期や時間帯なども、ある程度は導き出すことが出来るようになります。

  • 何日置きに排便があるのか、もしくは毎日か
  • 排便のある時間帯で、特に多い時間帯はいつなのか
  • 下剤などを使用している方は、服用してからどれくらいで排便があることが多いのか

など、排泄表と排便チェック表を参照しながら行えば、個人の排便データはすぐに作ることができます。

私は当時、夜勤中などで手が空いたときに作っていました。それほど時間はかからないので、ぜひやってみてほしいと思います。

排便のデータを使って、まずは便失禁の回数を減らそう

入居者の排便のある時間帯が分かれば、その時間帯にオムツ交換を行うことで便失禁をかなり減らすことができるようになります。

「確実に」というわけにはいきませんが、入居者別にある程度まで排便のある時間帯が把握できているのといないのとでは、便失禁の回数はかなり違ってきます。

オムツ交換で最も大変な便失禁を減らすことができれば、入居者に着替えなどで負担をかけることも無くなりますし、かぶれなどの防止にもつながります。

排便のデータを排泄表に落とし込んで、1回でも多く便失禁を減らしていきましょう。

排便の出やすい時間帯のことも知っておこう

排便のデータを取る際に役立つ知識として、知らない人もいるかもしれないのでご紹介しておきます。

人間は「排便がしたくなる時間帯」というのがあります。それは、食事をした後です。

こんな経験はありませんか?

お腹いっぱい食事をして、しばらくするとトイレに行きたくなり排便をした経験です。

これは、人間の生理的な現象のひとつで、食べ物を食べていると同時に腸が活発に動くことから、食後に排便をしたくなるというものです。

イメージしてみましょう。私たちは、食べたものを消化して、便として排出しなければなりません。食べた分を消化して、新たな便を作るためには腸にある便は邪魔になります。そのために、脳が「排便しなさい」と指令を出すのです。

このメカニズムによって人間は、食後に排便に行きたくなる場合が多いということです。

また、食後の中でも特に便意を感じるのが「朝食後」となります。

これは、夜間に休んでいた腸が目覚めて最も活発に動くためです。朝起きて冷たい水を1杯飲むといいと言われているのは、腸を目覚めさせて動きを活発にする作用があるからなんです。

食後、特に朝食後は入居者も排便が多くなる時間帯です。

一概には言えませんが、オムツ交換の適切な時間帯として、食後のオムツ交換はできるだけ実施するようにしましょう。

オムツ交換に役立つ便利グッズ

寝たきりの入居者で、肌が非常に弱く臀部などがすぐにかぶれてしまう方は多いと思います。

そのような方がいる場合、通常であればワセリンなどをこまめに塗って肌を保護するぐらいしか、日常的なケアの方法としてはありません。

とても汗っかきな方はワセリンも汗ですぐに落ちてしまうため、何度もかぶれを繰り返して皮膚が黒ずんでしまうというケースを見たことのある人も多いでしょう。

ご家族からも、「少しぐらいお金をかけてもいいから、何か良いお薬などはないんですか?」と聞かれることも多かった私としては、ワセリンよりも効果的に肌を保護し、保湿も行えるようなものがないか探していました。

ワセリンやベビーオイルはベタベタする割にすぐに落ちてしまうので、落ちにくく長時間バリアを張ってくれるようなものを探していたら、ひとつ「これは使えるかもしれない」というものを見つけたのでご紹介しておきます。

入居者にも安心して使える「ファムズベビー」


肌の弱い入居者のために探し出したのは、ベビー用品からでした。

赤ちゃんの皮膚と同じように、高齢者の皮膚も保護機能が低下した状態です。

つまり、赤ちゃんに使える商品というのは、入居者に使用してもOKなものが多いということです。

これまでもベビーオイルやシッカロールなど、通常であればベビー用品として使うものを入居者に使ってきた例はたくさんありました。

少しぐらいお金をかけてもいいということなら、この「ファムズベビー」はぜひ使ってみてほしいと思います。

ワセリンのようにベタベタすることもなければ、汗などですぐに落ちてしまうこともありません。ピンポン玉のように泡で出てくるタイプなので、ワセリンのような「塗りすぎ」も防ぐことができます。

「長時間、皮膚を汚れなどから保護する目的」として使うためには、アレルギーなどの問題もあるため、なんでもいいというわけにはいきませんでした。

この商品は、アレルギーの心配もなく使えるため、その旨をご家族や看護師と相談し、現在も使用されています。

すでに一般家庭で介護をしている方や、施設などでも使用されているということですので、スキントラブルの多い入居者や、汗でかぶれたりすることの多い方には、この「ファムズベビー」を使ってみてほしいと思います。

まとめ

オムツ交換は、その手順や留意点など、一度習得してしまうとなかなか自分のスキルを見直してみようという意識は生まれません。

しかし、今回ご紹介した内容の中に、もしも「知らなかった」ということが1つでもあったとしたら、介護士としてのスキルはもっと上がるはずです。

介護士さんのスキルが上がれば、それが自然とサービスの質の向上につながるということは、本当にたくさんあります。

排泄ケアも同じようにして、ケアの質を上げていくためにもまずは介護士さん自身のスキルアップが必要だと私は考えています。

やらされる仕事ばかりではなく、やってみたいと思えるようなことを見つけてチャレンジしてみることが、なかなか向上しないと言われている「排泄ケアの質」を向上させるための第一歩だと信じて、まずは基本的な知識から磨いていきましょう。



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