介護現場においては、年間を通して、入浴中の事故というのは発生します。
冬の時期に多いとされる、ヒートショックだけではなく、他にも様々なことが原因で事故が起こるためです。
このページでは、入浴中の事故には、ヒートショック以外にもどのようなものがあるのかをすべてご紹介するとともに、その事故の原因と対策についても触れていきたいと思います。
入浴中の事故の中には、ときに入居者の命に関わるような事故につながるおそれのあるものが、意外にも多いということを、これを読めば分かるように、詳しくお伝えしていきますので、すぐに自分の職場でも、入浴事故に対しての対策を立てられます。
目次
介護現場での入浴介助の現状
すでにご存知の人も多いでしょうが、介護の現場では、ほぼ毎日のように入浴介助が行われています。
なぜ、ほぼ毎日、入浴介助を行う必要があるのかというと、施設に入居されている多くの入居者は要介護状態にあり、ひとりでは入浴ができない入居者も多いためです。
そのため、そのサポートとして介護士さんが付き添い、入浴介助を行う必要があるのです。
最低でも、週に2回以上の入浴を行うことは法律でも決まっていますが、入居者やそのご家族によっては、週3回の入浴や、毎日の入浴を希望される場合もあります。
その入居者やご家族の意向に沿って入浴介助を行うということになると、介護士さんは、ほぼ毎日の入浴介助をする必要が出てくるというわけです。
また、褥瘡(床ずれ)などの皮膚にトラブルのある入居者のために、入浴の回数を増やして皮膚の清潔を保ち、早期の治療を目指す努力をしている施設もあります。
もちろん、このようなことは一切行わず、最低限のサービスしか行わないというところもあります。しかし、その背景には介護士さんの人員不足などが理由となっていることも多いため、最低限しか行わないことを、一概に責めることはできません。
なぜ入浴介助中の事故は減らないのか
入浴介助中の事故の原因で一番多いのは、ヒューマンエラーです。ヒューマンエラーとは、読んで字のごとく、人間のミスです。人為的ミスとも呼ばれます。
このヒューマンエラーが原因で起こる事故が、入浴中の事故では一番多いとされています。
介護士によるヒューマンエラーが圧倒的に多いという事実
これだけ、ほぼ毎日のように介護士さんは入浴介助を行っているわけですから、確率的にも、事故につながるケースはおのずと増えてしまうという現状は確かにあります。
加えて、いつも同じ介護士さんが、いつも同じ入居者の入浴介助を行うわけではありませんので、人が変われば、そこには当然ミスも生まれやすくなるという現状もあります。
そのような介護士さんのちょっとしたミスが、思わぬ入浴中の事故につながってしまうケースがあるようです。
仮に、毎回同じ介護士さんが、同じ入居者だけを入浴介助すれば、ミスは減らせるかもしれませんが、そのような体制を作ること自体、現実的には難しいですし、同じ人でもミスをするときだってあります。
よって、入浴介助を行う介護士さんは、どの入居者でも安全に入浴介助ができるように、多くの入居者の身心の状態を把握し、その方の入浴中に起こり得る、事故のリスクを最小限に抑えるようにしなければなりません。
自分のちょっとしたミスが原因で、それが入浴中の事故へとつながってしまうおそれがあるということは、常に意識しておけば、介護士さんによるヒューマンエラーを減らすことができるということです。
入浴中の事故が減らないもう一つの原因とは
しかし、入浴中の事故が減らない原因は、介護士さんのヒューマンエラーだけではないようです。
それは、入浴介助を受ける入居者が、事故の要因になることもあるためです。
あなたが介護士さんなら経験があると思いますが、たとえば、認知症の入居者を入浴介助するときに、突然その方の機嫌が悪くなり、入浴中に暴れてしまって困ったという経験はありませんか?
認知症の方は、とても心が繊細な上に、喜怒哀楽の表現がわかりやすい方も多いため、入浴中のちょっとしたことが原因で突然暴れたり、怒り出したりすることがあります。
そのときに、バランスを崩して転倒してしまったり、どこかにぶつけて表皮剥離などのケガをしてしまい、それが入浴中の事故につながるおそれがあるのです。
もちろん、入浴介助をしていた介護士さんの対応に、なんの落ち度もないかというと、そうではない場合もあるんですが、とにかく、入居者が自分で激しく暴れて動いてしまったことが原因で起こる事故というのも実際には多いのです。
他にも、認知症はなくとも、自分で歩いて入浴のできる方が、滑って転倒してしまうケースや、露出した肌を爪で掻きむしって出血してしまうケースなどもあります。
このように、入居者自身が原因で起こる事故も多いため、入浴中の事故は減りそうで減らない事故だと言われているのです。
入浴中に多い6つの事故と、事故防止に向けた対策
この章では、あらゆる入浴中の事故をピックアップした中から、その中でも特に注意すべきものを順にお伝えしていきます。
事故の原因と、その対策もお伝えしていますので、参考にしてください。
【外傷】
外傷は入浴時の事故の中で最も多く、その中でも表皮剥離(皮がめくれて出血した状態)は圧倒的に多いです。
次いで打撲後の皮下出血(内出血)など、肌が露出してしているからこそ起きやすい外傷事故が続いています。
特に表皮剥離は、腕や足などに皮下出血(内出血)があり、その部分を何かにぶつけたり、誤って洗身用のタオルなどでゴシゴシ洗ってしまって剥離を起こすといったケースが多いです。
もちろん、介護士さんが気をつけるべきなのですが、入浴を楽しんでもらおうとするあまり、つい話に夢中になっていたり、時間に焦って入浴介助を行っているときなど、注意力不足で起こしてしまうケースがよくあります。
入居者が自身で動くときに知らない間にぶつけてしまっていたり、剥離を起こしている場合もあります。
このような外傷事故の対策としては、皮下出血(内出血)がある場合には、その大きさの程度によっては、看護師さんに保護テープを貼ってもらったり、その部分をタオルで保護してから入浴をするなど、皮膚への直接的なダメージを減らすようにするといいでしょう。
他にも、入浴前に洋服を脱いだときに、入居者の全身をあらかじめ観察して、どこか傷などはないかを確認しておくことが重要です。
【転倒】
外傷事故に次いで多いのが、転倒事故です。入浴中の転倒事故は様々なケースで起きており、転倒と同時に入居者にケガをさせてしまうこともよくあります。
転倒後のケガで最も多いのは皮下出血(内出血)や打撲などの軽傷ですが、場合によっては頭部や身体の裂傷(切り傷)や大腿骨などを骨折してしまうケースもあります。
転倒事故の原因となる主なケースとしては、
- 介護士が立位介助(立ち上がりの介助)中に、バランスを崩してしまったことで一緒に転倒するケース
- 介護士が歩行介助(両手引きや脇を抱えて歩行)中に、バランスを崩して転倒させてしまうケース
- 介護士が移乗介助(車イス⇔シャワーチェア、シャワーチェア⇔浴槽の移乗)中に、バランスを崩して転倒させてしまうケース
- 介護士が目を離した隙に入居者がひとりで立ち上がり、転倒してしまうケース
- 普段はひとりで歩ける入居者が、自身や床のボディソープなどで滑って転倒してしまうケース
- 浴槽の出入りがひとりでも可能な入居者が、立ちくらみ(起立性低血圧)などで目まいや意識消失を起こして転倒してしまうケース
- つかまり歩きの出来る入居者が、手すりを持った際に、手すりについたボディソープなどで滑ってバランスを崩して転倒してしまうケース
- 脱衣所で、濡れた床やバスマットなどで滑って転倒してしまうケース
このように、転倒事故は様々なケースで起こります。
よって、入浴中の転倒事故の対策としては、上述したようなケースになる場合には、特に注意して入浴介助を行う必要があるということです。
他にも、入居者の専用のシャンプーや、シェーバーなどを取りに行こうとして、ほんの少し目を離しただけでも、転倒事故につながるおそれはありますので、安全な入浴介助は準備の段階から始まっているということを意識するようにしましょう。
【湯疲れ(湯のぼせ、湯あたり)】
まずはじめに、湯疲れと、湯のぼせと、湯あたりの違いについて簡単に説明します。
一般的に、入浴の後にぐったりしてしまうことを、「湯あたりした」と言いますが、それは間違いです。
正確には、「湯疲れ」「湯のぼせ」と言います。
- 湯疲れ:湯に浸かりすぎて、疲れた状態
- 湯のぼせ:熱い湯に浸かりすぎて、のぼせてしまった状態
「湯あたり」という言葉は、温泉療法などで繰り返し入浴を行っているうちに、目まいなどの体調不良を起こした状態のことを言います。
簡単な説明ですが、知っておくと入浴中の話題のひとつとして使えますので、よければどうぞ。
本題に戻りますが、入浴後の湯疲れも、入浴中の事故になるとご存知でしたか?
入浴好きな入居者に多いのですが、いつもよりも長く湯船に浸かり過ぎたために、入浴後に湯疲れを起こして、体調を崩すことがあります。
特に冬場は、身体もすぐに冷えてしまうからと、介護士さんもつい長湯を許してしまいがちです。
入浴すること自体、高齢者の体には負担も大きく、体力を消耗しがちですから、いくら入居者ご本人が長湯を望まれたとしても、ある程度の入浴時間で済ますように、介護士さんは意識しておく必要があります。
入浴後の湯疲れを防ぐ対策としては、入居者の平均入浴時間は、だいたい40分前後が好ましいとされていますので、高齢者の場合は、5分以上湯船に浸かっているようなら、声をかけて早めに浴槽から出てもらうようにするなど、特に注意しておく必要があるでしょう。
そして、入浴後も体調を崩されていないかなど、フロア担当の介護士さんと連携を図り、状態観察に努めることが非常に重要です。
湯疲れ程度なら、わざわざ事故にしなくてもいいだろうという施設もありますから、事故扱いとするか、ヒヤリハット扱いとするかは、その施設の方針に従ってもらって構いませんが、私は、この湯疲れに関しては事故扱いとしています。
湯疲れで体調を崩したことで、吐き気・嘔吐などの症状や、自室でフラフラして転倒事故につながったケースもあるためです。
つまり、湯疲れを起こしたことが原因で、二次的な要因となる吐き気や転倒が起こったと考えられるため、そもそもの原因である湯疲れは、事故であると判断しています。
【ヒートショック】
冬場の入浴で、高齢者は特に注意しておく必要があるのが、ヒートショックです。
テレビなどで取り上げられることも多いので、すでにご存知の人も多いと思います。
ヒートショックについての記事は、こちらで詳しくお伝えしていますので、興味のある方は読んでみることをおすすめします。
【参考サイト:とある介護福祉士のさとり】
【転落】
転倒事故ほど多くはありませんが、入浴中の転落事故も、起こるおそれのある事故のひとつです。
転倒とは違い、転落した入居者の身体には深刻なダメージが残ることの多い事故でもあります。
シャワーチェアからのずり落ち程度なら、比較的軽傷ですむことが多いのも事実です。しかし、それでも入居者の中には、それだけで骨折してしまったケースもあるぐらい、転落というのはダメージの大きいものでもあるのです。
転落事故の原因となる主なケースとしては、
- 介護士が二人で移乗介助(車イス⇔シャワーチェア、シャワーチェア⇔浴槽の移乗、車いす⇔ストレッチャー)中に、手が滑って床に入居者を転落させてしまうケース
- 介護士が二人で移乗介助(車イス⇔シャワーチェア、シャワーチェア⇔浴槽の移乗、車いす⇔ストレッチャー)中に、勢いをつけて持ち上げたためにバランスを崩し、転落させてしまうケース
- 介護士が立位介助(立ち上がりの介助)後に、イスに座らせたが、座らせ方が浅くずり落ちて転落してしまうケース
- 介護士が目を離した隙に入居者の身体が前のめりにバランスを崩し、イスなどから転落してしまうケース
- 介護士が目を離した隙に入居者の身体が左右にバランスを崩し、イスなどから転落してしまうケース
- 介護士が脱衣所で二人で移乗介助中に、濡れた床やバスマットなどで滑ってバランスを崩し、転落させてしまうケース
- 入浴用ストレッチャーや寝台の上で、入居者が急に暴れ出してしまい、身体を大きく動かした際に誤って転落してしまうケース
このように、転落事故も転倒事故と同様に、様々なケースで起こります。
原因として注目すべきなのは、転落事故の原因は、そのほとんどが介護士によるヒューマンエラーが多いということです。
「つい手が滑って」、「つい勢い余って」、「ちょっと目を離した隙に」、という具合に、その場に介護士がいながらにして起こる事故が、この転落事故の特徴でもあります。
そういえば、入浴中の転落事故で、衝撃的なニュースが報道されたことを、今でも覚えています。これを読まれている人の中にも、もしかすると覚えている人もいるかもしれません。
とある老人ホームで、入浴介助中の様子を隠し撮りしていた、というものです。そこには、入浴用のストレッチャーから移乗介助をしようとした介護士二人が、入居者を勢いよく持ち上げたせいでバランスを崩し、そのまま床に転落させてしまう映像が映っていました。
本当に衝撃的だったのはここからです。
あわてて入居者を抱きかかえたその介護士たちは、何事もなかったかのように入居者を寝台に移し、洋服を着せ始めたのです。
転落時の音を聞き、駆け付けた他の介護士も、特にあわてるそぶりも見せずに帰っていきました。その入居者がその後、どうなったかが心配で、気になって仕方ありませんでした。
そんな映像を見て、正直、戦慄が走りました。「こんな人が介護をやっていていいワケがない」と、怒りに震えたのを今でも覚えています。
少し脱線してしまいましたが、本題に戻ります。
転落事故を防ぐ対策としては、入居者の移乗介助などを行う際は、手がボディソープなどで滑りやすくなっていないか、「イチ、ニ、サン」と介護士同士がお互いに声を掛け合ってタイミングを合わせて介助を行えているか、片時も目を離すことなく、そばに必ず介護士がひとりは付き添っているかなど、介助の基本中の基本を、集中して行うことが重要です。
上述したニュースのような、痛ましい転落事故を起こさないためにも、集中力を切らさずに介助を行うようにしましょう。
【感染症】
入浴によって、様々な感染症にかかってしまうケースです。
感染症を持つ入居者が入浴したあとに、別の入居者が同じ湯船に浸かったり、同じ入浴用品を使うことで、口や血液、肌を介して感染してしまうことがあります。
代表的なものを挙げると、
- B型肝炎、C型肝炎
- 緑膿菌
- MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- 白癬菌(水虫)
- 疥癬
- ノロウィルス
などがあります。
多くの場合、このような注意すべき感染症のある入居者の入浴介助を行う際は、入浴の順番をずらして、一番最後に入浴してもらうのがセオリーです。
そして、そのような入居者に使用した入浴用品や浴槽などは、入浴後に徹底的に洗浄・消毒・熱湯消毒などを行うことで、感染の拡大を抑えます。
とはいえ、やはり感染症を持つ入居者の入浴には細心の注意を払う必要があることに変わりはありません。
それはなぜかというと、このような感染症の一部は、入居者だけではなく、介護士自身にも感染してしまうおそれがあるからです。
介護士は、基本的に入浴介助を行う際は、半ズボンにTシャツ、裸足に入浴用のサンダルなどを履いて入浴介助を行います。入浴介助用のビニールエプロンも使用しますが、それでも手足はむき出しの場合がほとんどです。
そのため、介護士自身が上述したような感染症にかかってしまうおそれは、十分にあると考えたほうがいいでしょう。
最も気をつけなければならないのは、介護士自身が媒介となり、菌やウィルスを他の入居者のところまで運んでしまうことです。
介護士自身には感染しなくとも、入居者には感染してしまうというリスクは、実はかなり高いです。
介護士が媒介者とならないためにも、それぞれのウィルスや菌が、どのような感染経路で感染するのかは、最低限知っておく必要があります。以下、簡単に感染経路をご紹介します。
- B型肝炎、C型肝炎:血液を介して感染する。傷などがある場合は要注意。
- 緑膿菌:主に接触感染。入浴後に褥瘡などの処置、オムツ交換をする場合には注意が必要。
- MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌):接触感染で感染する。触れた場合は、消毒を。
- 白癬菌(水虫):接触感染で感染する。石鹸などできれいに洗うことで感染を防げる。
- 疥癬:長時間の接触で感染する。短時間なら感染リスクは低い。
- ノロウィルス:接触、飛沫、空気感染の3通り。症状が収まった後の入浴でも注意すること。
いかがでしょうか。それぞれの感染経路と対策を知っておくだけで、感染のリスクはかなり減らすことができるということが、これでわかっていただけたかと思います。
まとめ
言うまでもないことですが、入浴中の入居者は裸です。
つまり、とてもケガをしやすいということです。外傷や転倒、転落事故が起こってしまえば、入居者の身体は何に守られることもなく、相当のダメージを受けます。
このページを読み込むことで、入浴中に多い事故の原因や対策を知っておくことが、いかに重要なことであるかがお分かりいただけると思います。
入浴後、入居者に「気持ちよかったよ、ありがとう」と、そう言ってもらえるように、安全で、安心できる入浴環境を、介護士さんは作ってあげましょう。
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