施設に入居されている方にとって食事というのは、毎日の生活の中での楽しみのひとつです。
「美味しく食べたい。」
「食事を安心して食べたい。」
「いろんなバリエーションで食事を楽しみたい。」
入居者の中には毎日の献立を楽しみにされている方も多く、昼食後すぐに夕食の献立表を見にくる方もいるほどです。
そのような場面を見かけると、食事というのは入居者にとって本当に欠かせない楽しみのひとつなんだろうなと思います。
入居者にとって安全で、安心できる食事とはなにか。
食事介助で大切にしなければならないこととはなにか。
ということに配慮して、私たち介護士も食事を提供していかなければと、日々考えさせられることも多いのではないでしょうか?
そこでこのページでは、おさらいの意味も込めて、食事介助の基本的な考え方や注意点をご紹介していきます。
介護士として、入居者が安心して美味しく食事を召し上がることができるようにするには、どのような点に注意しながら食事介助を行えばいいのか。
また、食事介助の基本がまったく分からないという介護の未経験者でも、なるべく分かりやすい言葉で、丁寧に解説していくので安心して読んでもらえればと思います。
目次
食事介助の基本と注意点
ここでは、まず食事介助の基本となる、
- 食事の準備
- 食事介助のときの姿勢
- 食事の食べさせ方
- 食事をする環境
について、ひとつずつ確認していきましょう。
食事の準備
施設や病院などで提供される食事は、基本的にその方に合った食事を提供することになっています。
これを「食事形態」といいますが、この食事形態には刻み食やミキサー食など、様々な種類があるため、入居者の食事を間違って別の入居者に提供しないように注意する必要があります。
食事形態の種類については、介護施設や病院で提供される6つの食事形態の種類や食事の種類(食事形態)についてが参考になると思いますので、合わせて読んでおきましょう。
お茶などの水分も、その方に合ったものを準備します。
入居者の中には水分にムセやすい方もいるので、そのような方には「とろみ剤」を使って水分にとろみを付けたり、お茶をゼリー状にしたお茶ゼリーなどを提供することもあります。
とろみの具合など、水分のタイプも入居者ごとに決められているので、誤って別のものを提供しないように注意しましょう。詳しくは、食事介助でとろみ剤を使うときに知っておくべき注意点に載せていますので、一度は読んでおくとより理解が深まります。
食事と水分の準備が終わったら、食前や食後に飲むお薬の有無も忘れずに確認しておきましょう。
特に食前に飲むお薬は、食事を食べ始めてからでは効果が薄くなる場合もあるので注意が必要です。
食事介助のときの姿勢
食事介助をする際の入居者の姿勢には、
- イス(車イス)で食べる
- リクライニング車いすで食べる
- ベッドで食べる
この3つのタイプによって、食事を食べやすい姿勢(食べ物を飲み込みやすい角度)というものが違ってきます。
イス(車イス)に座った状態で食事介助を行う場合は、身体が少し前傾姿勢になるぐらいの角度が理想的です。
身体が前傾姿勢になっていない状態で食事介助をすると、ムセやすくなったり食べ物を詰まらせたりする危険性が高くなるので、食事介助の際は常に姿勢を確認しながら介助を行うようにするのが基本です。
テーブルでの食事については、以下の記事が参考になると思いますので、一読しておくことをおすすめします。
食事のときの姿勢~テーブルでの食事①~
食事のときの姿勢~テーブルでの食事②~
食事のときの姿勢~テーブルでの食事③~
リクライニング車いすに座った状態で食事介助を行う場合は、頭の後ろにクッションなどを挟み、車イスの角度を45~60度に調整するようにしましょう。
リクライニング車イスの角度も、入居者が食べやすい(ムセにくい)角度というものがあるので、適当に角度をつければいいというわけでないということは覚えておきましょう。
ベッドに寝た状態で食事介助を行う場合は、枕を外してクッションなどを頭の後ろに挟み、ギャッジアップをしてベッドの角度を45~60度に調整しましょう。
ベッドのギャッジアップをするときは、入居者の腰の位置がベッドの折れ曲がる位置になっているかを確認しながら行いましょう。膝は少し曲げて、ひざ下にクッションなどを挟むと楽な姿勢になります。
ギャッジアップして身体を起こしたときに左右への身体の傾きがみられるときは、そのときの状態に応じてクッションなどを挟んであげるようにすると安定します。
食事介助中にベッド上でずり落ちてきたときは、一度姿勢を直すようにしてください。ムセなどの原因になります。
食事の食べさせ方
食事介助といっても、その介助方法には大きく分けて3つのタイプがあります。
- 見守り
- 一部介助(もしくは半介助)
- 全介助
見守りは、基本的にはすべて自分で食事をすることの出来る入居者への対応のことです。介護士さんは食事中の入居者の様子を観察し、食べにくそうにしていないか、食事を詰まらせたりする危険はないかを常にチェックします。
一部介助は、食器の位置の並べ替えや食べにくいおかずのカットなど、介護士さんが一部分だけ介助を行うことをいいます。
全介助は、一人では食べることの出来ない入居者に対して、介護士さんがすべての食事を食べさせることをいいます。
このように、介助のタイプによって介護士さんは食事介助を行います。食事すべてを介護士さんが食べさせればいいというわけではないということです。
その理由のひとつとして、介護には「自立支援」というものがあります。
自分で出来ることはなるべく自分で行うようにして機能を維持すること、認知症などで出来なくなっていても少しずつ自分で出来るように機能を回復させていくこと、それが自立支援です。
食事介助もなるべく入居者の自立を促すために、箸の代わりにスプーンを持って自分で食べていただいたり、ご飯をおにぎりにして食べやすくしたりと、様々な工夫をする必要があります。
その中で、入居者が出来ないところを介助するのが私たち介護士の仕事です。
少し話が脱線しましたが、つまり食事介助で食べさせるときにも「こうすれば自分で食べれるんじゃないか」「これを使えばもっと上手く食べれるようになるかもしれない」、と考えながら介助を行うことが大切だということです。
食事を食べさせるときの注意点をまとめると、以下のことが挙げられます。
- 介護士が立って食事介助をするのはNG
- 食事介助は入居者の横に座って行うこと
- 食事を口に運ぶ際には、目線よりも下から口元まで持っていくようにすること
- スプーンに乗せる量は一口で食べられる量にすること
- スプーンを口に入れる際は舌の上に食べ物を乗せるように入れること
- 飲み込みを確認してから次の食事を提供すること
- 食事に集中できる環境を作ること
上記のことを守らないと、食事中にムセたり誤嚥(気道などに誤って食べ物が入ってしまうこと)する危険性が高くなります。
横に座って食事介助をするのは基本中の基本です。向かい合って介助したり、立って介助をするのは誤嚥を誘発するだけでなく、入居者に圧迫感を与えてしまいますので止めましょう。
また、たまに大スプーンで食事介助をしている介護士さんがいますが、食べ物を詰め込み過ぎるとムセや窒息のおそれもあるため、スプーンは小さいものを使うようにしましょう。
一口大とは、口の中でひとまとめにして飲み込むことが出来るぐらいの量のことを言います。
認知症のある方はテレビがついていたりすると、画面に気を取られて食事に集中できないこともあるため、そのときは席を移動するか、食事中はテレビを消しておくようにするなどの配慮をするのが好ましいと言えます。
食事をする環境
食事介助をする上で、ベテランの介護士さんでも意外と気づかないのが、食事のときの環境です。
施設や病院などでは基本的に「食事をする場所」というのが決まっているため、それ以外の場所で食事をすることはあまりありません。
もちろん衛生管理上の問題もありますし、一人だけ離れた場所で食事をするとなると介護士の人手が不足してしまう場合もあるためです。
安全に食事をしていただくのが最優先ですから、見守りのいらない入居者なんて本当はひとりもいません。
しかし、多くの人が集まる食堂だとザワザワして、落ち着いて食事に集中できない方というのも、入居者の中にはいらっしゃいます。
認知症のある入居者や、元々の性格によっては、そのような食事の環境によって食欲が低下してしまったり、口を開けてくれなくなることもあります。
窓を開けて風通しをよくしたり、テレビの代わりに音楽をかけるなど様々な工夫をすることで改善できたというケースはたくさんあります。
食事介助をする際には、ただ食事を食べさせることだけを考えるのではなく、なるべくその方に合った食事環境を作ってあげることも大切だということを覚えておきましょう。
まとめ
食事介助の基本を理解する上で考えてみてほしいことがあります。
それは、「自分が食事介助される立場になってみる」ということです。
自分が食べやすい大きさにカットされた食事は、スムーズに食べることができます。
自分が食べやすい姿勢で食事をすることで、食べ物を楽に飲み込めます。
介護士さんに隣に座って食べさせてもらえると安心して食べることができます。
このように、食事介助の基本も「自分がやってほしいこと」を考えることだと私は思います。
食事介助の際の注意点を、今度は自分が入居者の立場になってもう一度読み返してみると、食事介助の基本的な考え方を理解するのはそう難しいことではないのだと実感できると思いますので、ぜひ試してみてください。
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